官報　号外　明治三十二年十二月十五日　金曜日　印刷局
第十四回帝国議会　貴族院議事速記録　第九号
　
明治三十二年十二月十四日（木曜日）午前十時九分開議
　
議事日程　第九号　明治三十二年十二月十四日
議長（公爵近衛篤麿君）宗教法案、政府提出、第一議会
　　　　　　（河田書記官朗読）
　
宗教法案
右
勅旨ヲ奉シ、帝国議会ニ提出ス
明治三十二年十二月九日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　内閣総理大臣　侯爵　山県　有朋
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大蔵大臣　　　伯爵　松方　正義
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　内務大臣　　　侯爵　西郷　従道
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　司法大臣　　　　　　清浦　奎吾
　（左ノ議案ハ、朗読ヲ経サルモ、参照ノタメニココニ載録ス）
　
　　　　宗教法
　　　　　第一章　総則
第一条　公ニ宗教ヲ宣布シ又ハ宗教上ノ儀式ヲ執行スルヲ目的トスル社団又ハ
　財団ハ、本法ニヨルニ非サレハ、法人トナルコトヲ得ス
第二条　本法ニオイテ教会ト称スルハ、公ニ宗教ヲ宣布シ又ハ宗教上ノ儀式ヲ
　執行スルヲ目的トスル社団法人又ハ財団法人ニシテ、寺ニ非サルモノヲイウ
第三条　本法ニオイテ寺ト称スルハ、寺院ヲ所有シ、教法ヲ宣布シ、法儀ヲ修
　行スルヲ目的トスル財団法人ヲイウ
　寺院ハ、仏教ノ本尊ヲ安置シ、教法ヲ宣布シ、法儀ヲ修行シ、僧侶ノ止住ス
　ル建物トス
第四条　前二条ノ目的ヲ有スル社団又ハ財団ヲ総轄スル社団又ハ財団ハ、教会
　又ハ寺トナルコトヲ得ス
第五条　本法ニオイテ教派又ハ宗派ト称スルハ、公ニ宗教ヲ宣布シ又ハ宗教上
　ノ儀式ヲ執行スルヲ目的トシ、教規、宗制ノ定ムル所ニヨリ、教会又ハ寺ヲ
　総轄スル宗教団体ヲイウ
　教派又ハ宗派ニ属スル宗教団体ハ、教派又ハ宗派トナルコトヲ得ス
第六条　教派、宗派、教会又ハ寺ヲ維持スル社団又ハ財団ヲ除クノ外、宗教団
　体ヲ維持スル社団又ハ財団ハ、法人トナルコトヲ得ス
第七条　教派、宗派、教会又ハ寺ハ、本法ニ定メタル目的ノ外、教規、宗制、
　教会規則又ハ寺規則ニ定ムル所ニヨリ、公益事業ヲモっテ併セテソノ目的ト
　ナスコトヲ得
第八条　慣例ノ許ス所ニ係ルモノヲ除ク外、宗教上ノ事項ニ関シ、公衆ヲ会同
　スルトキハ、発起人ハ、開会二十四時間以前ニ、会同ノ目的、場所及ヒ年月
　日時ヲ行政官庁ニ届出ツヘシ但シ、主務官庁ノ認可又ハ許可ヲ得タル宗教団
　体ニオイテ、公衆ヲ会同スルトキハ、コノ限リニアラス
　宗教団体ニシテ、会場ヲ予定シ、定期ニ、宗教上ノ事項ニ関シ、公衆ヲ会同
　スルモノハ、コレヲ初期ノ開会二十四時間以前ニ届出ツルトキハ、爾後ノ例
　会ハ、届出ヲ要セス但シ、届出事項ニ変更アリタルトキハ、コノ限リニアラ
　ス
第九条　宗教ノ宣布、宗教上ノ儀式ノ執行、ソノ他宗教上ノ事項ニ関シ、安寧
　秩序ヲ妨ケ、風俗ヲ壊リ（ヤフリ）又ハ臣民ノ義務ニ背ク行為アリト認ムル
　トキハ、主務官庁ニオイテ、ソノ変更モシクハ取消ヲ命シ又ハコレヲ禁止ス
　ルコトヲ得
第十条　剥奪公権者及ヒ停止公権者ハ、宗教団体ノ事務担当者トナルコトヲ得
　ス又、宗教上ノ事項ニ関シ、公衆ヲ会同スルコトヲ得ス
第十一条　教派、宗派、教会又ハ寺ノ礼拝ノ用ニ供スル土地建物ハ、差押エル
　コトヲ得ス
第十二条　左ニ記載スルモノニハ、租税ヲ賦課セス
　一　教派、宗派又ハ教会ノ宗教ノ宣布又ハ宗教上ノ儀式執行ノ用ニ供スル建
　　物並ヒニソノ構内地及ヒソノ構内地ニ存在スル教師止住ノ用ニ供スル建物
　二　寺ニ属スル寺院、仏堂及ヒソノ境内地
　前項ニヨル地租ノ免除ニ付イテハ、地租条例第十三条公立学校地ノ規定ヲ準
　用ス
　第一項ニ掲ケタル土地建物ニ係ル登記ニハ、登録税ヲ賦課セス
第十三条　前条ノ境内又ハ構内ノ取締、ソノ土地建物ノ使用ノ制限、租税ヲ賦
　課セサルモノノ種類及ヒ区域ハ、命令ノ定ムル所ニヨル
第十四条　教派、宗教（？原文のまま）、教会、寺、ソノ他ノ宗教団体ハ、主
　務官庁ノ監督ニ属ス
　主務官庁ハ、事務ノ報告ヲ徴シ、ソノ状況ヲ検査シ、ソノ他監督上必要ナル
　命令ヲ発シ又ハ処分ヲ行ウ
第十五条　教派、宗派、教会又ハ寺カ、法律命令ニ背キ、目的以外ノ事業ヲナ
　シ又ハ認可モシクハ許可ノ条件ニ違反シタリト認ムルトキ又ハ公益上必要ア
　リト認ムルトキハ、主務官庁ハ、ソノ与エタル認可又ハ許可ヲ取消スコトヲ
　得

　　　　　第二章　教会及ヒ寺
第十六条　教会又ハ寺ヲ設立セントスルトキハ、教会規則又ハ寺規則ヲ作リ、
　主務官庁ノ許可ヲ受クヘシ
第十七条　教会規則又ハ寺規則ノ変更ハ、主務官庁ノ認可ヲ受クヘシ
第十八条　寺ニハ、住職ヲ置クヘシ
　寺ニハ、寺規則ノ定ムル所ニヨリ、副住職ヲ置クコトヲ得
　住職欠ケタルトキモシクハ故障アルトキ又ハ寺ト住職ト利益相反スルトキハ、
　副住職、ソノ職務ヲ代理ス
第十九条　寺ニハ、参助役ヲ置クヘシ但シ、特別ノ事情アル場合ニオイテ、主
　務官庁ノ許可ヲ得タルトキハ、コノ限リニアラス
　参助役ノ員数、任期、資格、選任方法、職務権限及ヒ解職ニ関スル規定ハ、
　宗制又ハ寺規則ヲモっテコレヲ定ムヘシ
第二十条　住職カ、命令ノ定ムル所ニヨリ、参助役ノ同意ヲ経ルコトヲ要スル
　場合ニオイテ、ソノ同意ナクシテナシタル住職ノ行為ハ、寺ノ行為ト看做サ
　ス
第二十一条　寺ノ財産ノ管理及ヒ処分ニ関シテハ、命令ノ定ムル所ニヨリ、主
　務官庁ノ認可ヲ受クヘシコノ場合ニオイテ、認可ナクシテナシタル行為ハ、
　寺ノ行為ト看做サス
第二十二条　教会規則又ハ寺規則ハ、民法第三十七条ノ定款又ハ民法第三十九
　条ノ寄付行為ト同一ノ効力ヲ有ス
第二十三条　民法及ヒ民法施行法中、法人ノ理事ニ関スル規定ハ、本法ニ別段
　ノ定メアルモノヲ除クノ外、コレヲ住職及ヒ住職ノ職務ヲ代理スル副住職ニ
　準用ス
第二十四条　民法第四十条第五十六条及ヒ第五十七条ニヨリ裁判所ノナスヘキ
　事項ハ、利害関係人ノ請求ニヨリ又ハ職権ヲモっテ、主務官庁コレヲ行ウ
第二十五条　寺設立ノ許可ヲ得タル後、指定ノ期間ニ、寺院ヲ設置セサルトキ
　又ハ寺院滅失シタル後五カ年以内ニ再建セサルトキハ、ソノ寺ハ、解散シタ
　ルモノト看做ス
第二十六条　教派又ハ宗派ノ認可消滅シタル場合ニオイテハ、ソノ教派又ハ宗
　派ニ属セシ教会又ハ寺ハ、三カ月以内ニ、教会規則又ハ寺規則ノ変更ノ認可
　ヲ請ウヘシ
　前項ノ認可ヲ請ワス又ハソノ認可ヲ得サル教会又ハ寺ハ、解散シタルモノト
　看做ス
第二十七条　寺解散シタル場合ニオイテ、ソノ寺ニ属スル宝物ノ処分ハ、勅令
　ヲモっテコレヲ定ム

　　　　　第三章　教派及ヒ宗派
第二十八条　宗教団体ニシテ教派又ハ宗派タラントスルトキハ、教規又ハ宗制
　ヲ作リ、主務官庁ノ認可ヲ受クヘシ
第二十九条　教派及ヒ宗派ニハ、主務官庁ノ認可ヲ得タル代表者ヲ置クヘシ
第三十条　教規又ハ宗制ニオイテ定メタル事項ニ関スル争議ニシテ勅令ノ定ム
　ル事項ニ係ルモノハ、宗教委員会コレヲ裁決ス
　前項ニヨリ宗教委員会ニオイテ裁決スヘキ争議ハ、民事裁判所ニオイテ受理
　スルノ限リニアラス宗教委員会ノ審理裁決スヘキ事項カ、訴訟ノ全部又ハ一
　部ノ裁判ノ原由タルヘキ場合ニオイテハ、裁判所ハ、宗教委員会ノ裁決アル
　マテ、訴訟ノ弁論ヲ中止スヘシ
　宗教委員会ノ組織権限及ヒ裁決ノ手続ハ、勅令ヲモっテコレヲ定ム
第三十一条　宗教委員会ノ裁決ハ、行政上ノ執行方法ニヨリ、コレヲ執行ス
第三十二条　第十七条ノ規定ハ、コレヲ教規及ヒ宗制ニ準用ス

　　　　　第四章　教師
第三十三条　本法ニオイテ教師ト称スルハ、公ニ宗教ノ宣布又ハ宗教上ノ儀式
　ノ執行ニ従事スル者ヲイウ
第三十四条　剥奪公権者及ヒ停止公権者ハ、教師ナルコトヲ得ス
第三十五条　刑法第　三百六十条ノ規定並ヒニ刑事訴訟法第　百二十五条第一
　項第二号及ヒ民事訴訟法第二百九十八条第一項第二号ニ掲ケタル者ノ証言ニ
　関スル規定ハ、コレヲ教師ニ準用ス
第三十六条　主務官庁ハ、安寧秩序ヲ害スルト認ムル者ニ対シ、教師タルコト
　ヲ停止シ又ハ禁止スルコトヲ得
第三十七条　教師ハ、政治上ノ意見ヲ発表シ、ソノ他政治上ノ運動ヲナスコト
　ヲ得ス
第三十八条　教派、宗派、教会又ハ寺ニ属スル教師タルノ資格及ヒ選定ニ関ス
　ル制限ハ、勅令ヲモっテコレヲ定ム
第三十九条　教派、宗派、教会又ハ寺ニ属スル教師ニハ、民事訴訟法第　五百
　七十条第五号及ヒ第六号ノ規定ヲ準用ス

　　　　　第五章　罰則
第四十条　第八条ニ違ウトキハ、発起人ヲ、二十円以下ノ罰金ニ処ス
　第八条ノ届出ヲナスモ、実ヲモっテセサル者ハ、三十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十一条　第九条ノ命令又ハ禁止ニ違背シタル者ハ、二年以下ノ軽禁固又ハ
　　三百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十二条　第十条ニ違背シテ、宗教団体ノ事務担当者トナリモシクハ公衆ヲ
　会同シタル者又ハ第三十四条ニ違背シテ教師ノ職務ヲ行イタル者ハ、一年以
　下ノ重禁固ニ処シ、十円以下ノ罰金ヲ附加ス
　剥奪公権者又ハ停止公権者ナルコトヲ知リテ、コレヲ教師ニ選定シタル者、
　罰前項ニ同シ
第四十三条　第十四条ニヨル主務官庁ノ命ニ違背シテ、報告ヲナササルトキハ、
　ソノ宗教団体ノ事務担当者ヲ、二十円以下ノ罰金ニ処ス
　前項ノ報告ヲナスモ、実ヲモっテセサル者ハ、三十円以下ノ罰金ニ処ス
　第十四条ニヨル主務官庁ノ検査ヲ妨ケタル者、罰前項ニ同シソノ刑法ニ正条
　アルモノハ、刑法ニヨル
第四十四条　宗教ノ宣布又ハ儀式ノ執行ニ、詐偽又ハ誘惑ノ手段ヲ用イタル者
　又ハ第三十六条ノ停止又ハ禁止ニ違背シテ教師ノ職務ヲ行イタル者ハ、一年
　以上ノ軽禁固又ハ　二百円以下ノ罰金ニ処ス
　第三十六条ノ停止又ハ禁止ノ処分ヲ受ケタル者ナルコトヲ知リテ、コレヲ教
　師ニ選定シタル者、罰前項ニ同シ
第四十五条　第三十六条ニ違背シタル者ハ、一月以下ノ軽禁固又ハ三十円以下
　ノ罰金ニ処ス
第四十六条　公然ノ演説ヲナシ、文書図画ヲ公布シ又ハ雑劇偶像ヲ作為シテ、
　教派、宗派、教会又ハ寺ヲ誹譏（ヒキ）又ハ凌辱シタル者ハ、一年以下ノ重
　禁固ニ処シ、五十円以下ノ罰金ヲ附加ス

　　　　　附則
第四十七条　明治十四年内務省乙第三十三号達、同年内務省戊第三号達、同十
　五年内務省戊第一号達、同十七年太政官第十九号布達及ヒ従前ノ成規ニシテ
　本法ニ抵触スルモノハ、神仏道ノ宗教団体又ハソノ宗教団体ヲ維持スル社団
　又ハ財団、寺院及ヒ宗教ノ用ニ供スル建物ニ関シテハ、ソノ効力ヲ失ウ但シ、
　本法施行後一カ年以内ハ、本法ニヨリ認可又ハ許可ヲ得サルモノニ対シ、ナ
　オソノ効力ヲ有ス
第四十八条　本法施行前ヨリ存在スル寺院、祠宇又ハ仏堂ニシテ、本法ニヨリ
　教会又ハ寺トナラサルモノニ属スル財産ノ処分ニ関スル規定ハ、勅令ヲモっ
　テコレヲ定ム
第四十九条　沖縄県ノ寺ニ関シテハ、別ニ勅令ヲモっテ規定ヲ設クルマテ、従
　前ノ例ニヨル
第五十条　民法施行法第二十八条ノ規定ハ、寺院祠宇及ヒ仏堂ニ関シテハ、本
　法ニヨリソノ効力ヲ失ウ
第五十一条　従前ノ法令中、寺ニ関スル規定ハ、本法施行後一カ年ノ後ハ、本
　法ニヨリ許可ヲ得タルモノニ限リ、コレヲ適用ス
　従前ノ法令中、僧侶又ハ教師ニ関スル規定ハ、本法施行後一カ年ノ後ハ、本
　法ニヨリ認メタル教師ニ限リ、コレヲ適用ス
第五十二条　宗教ノ宣布又ハ宗教上ノ儀式ノ執行ヲ目的トスル社団又ハ財団ニ
　シテ、本法施行前、民法又ハ民法施行法ニヨリ、法人タルモノハ、本法施行
　後一カ年以内ニ、本法ニヨリ教規宗制又ハ教会規則ヲ作リ、主務官庁ノ認可
　又ハ許可ヲ請ウヘシ
　前項ノ認可又ハ許可ヲ請ワサル者ハ、解散シタルモノト看做ス
第五十三条　本法ハ、明治三十三年七月一日ヨリ、コレヲ施行ス
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takayasu@pluto last modified: mon feb 28 10:15:57 2000