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修行・奉仕と労働の両立を―第82回拡大宗法研

具体的事例を通して対応を考える

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 新日本宗教団体連合(新宗連、岡田光央理事長)の宗教法人研究会(宗法研、仙波達治座長)は9月19日、東京都杉並区の佼成図書館で、第82回拡大宗法研を開催した。「修行・奉仕と労働の両立を考える―労働基準法の改正を受けて」をテーマに、弁護士と社会保険労務士の2氏が講演。政府が進める「働き方改革」の流れの中、労働基準法が10年ぶりに改正・施行されている。学習会では、労働関係法と法改正の一般的理解を深めるとともに、宗教団体特有の課題を学んだ。
 一人目の講師は、弁護士の本間久雄氏。本間氏は「労働紛争解決システムと裁判例にみる宗教法人の労働紛争」をテーマに講演。まず、宗教法人の職員の場合、労働関係法が適用されるかどうかがポイントと述べた。
 「労働者」と使用者(雇用者)との争いにおいては、労働者は労働関係法によって強い権利を認められている。それでは「労働者」とは何かというと、使用者に使用されるものであり、「使用従属性」があるか否かによって決まる。
 本間氏は「宗教法人の場合、そこで活動している者が修行などの目的で務めている場合には、労働者として扱うことは、信教の自由の観点で問題」と述べ、1952(昭和27)年の労働省通達と、近年の裁判例を紹介しながら、「上からの命令(指揮命令)であって、自発的に行っていなければ、信教の自由は関係がないという判断」と解説した。
 また、労働紛争の実際についての説明では、「団体交渉」について「労働者の法的権利のため拒否してはいけない」と注意を喚起。特に近年は個人加盟型のユニオン(労働組合)があり、労働組合から交渉があった場合、聞き覚えのない団体でも、まずは弁護士などの専門家に相談することを勧めた。
 最後に給与の発生しない奉仕の場合であっても、安全配慮義務があるとして、炎天下の作業などの際の配慮、教団施設の老朽化対策に加え、各種損害保険の検討も提案した。

トラブルを未然に防ぐには

 続いて、社会保険労務士の永田一美氏が「働き方改革」をテーマに講演。永田氏は「働き方改革」の目的は長時間労働の是正と過労死の防止であると述べた。
 今年度の主な改正では、年次有給休暇の年5日間消化と労働時間の把握が義務付けられた(罰則あり)ことを説明。有給休暇の付与の仕方、客観的に労働時間を把握する方法を事例に即して詳細に解説した。
 加えて、「時間外労働」について、一般的な観点から上限規制や割増賃金率を紹介。また、最新の最低賃金を示して、非常勤、アルバイトも含め、賃金計算、残業代計算を再度確認するようアドバイスした。
 永田氏は自身が関わった宗教法人の事例から、使用者と雇用者間で合意の上であったとしても、労働基準監督署が調査に入れば、不備の点を指摘されるとしながらも、「コミュニケーションをしっかりとって、トラブルを未然に防ぐこと、退職する場合も円満に」と語った。
 講演会を受けての質疑応答では、参加者から「何時から何時までは労働者で、以降は奉仕という区分けはできないのか」「教団職員の活動がすべて労働とみなされれば、本人の奉仕の精神や努力まで否定するようなことにならないか」などの質問、意見が出された。
 講師の2氏は、宗教団体の実情に理解を示しつつ、個別的な判断になるが労働者性が広く認定される傾向にあること、勤務時間外の宗教活動への参加はなるべく強制でなく自発的なものとすることが望ましいと述べた。

2019/9/19

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