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自由民主党・日本国憲法改正草案に対する意見書

平成27年6月16日

自由民主党・日本国憲法改正草案に対する意見書

自由民主党 憲法改正推進本部長
船田 元 殿 

 新日本宗教団体連合会は、現在、貴本部で行なわれている憲法改正作業に対して、日本国憲法の三大原理である「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を順守するとともに、基本的人権の根幹をなす「信教の自由」を確固たるものとしていくために、左記のとおり、五点にわたり意見を申し上げます。

一、憲法に国民の義務を記さないこと
立憲主義のもと、憲法は、主権者である国民が国家権力を預かる政治家や公務員に、その権限の枠組みを付与するためのものであります。そして、権力機構としての国家(State)は、国民の幸福を実現するためにあり、国民が幸福になるための基盤は、一人ひとりの基本的人権が守られることにあります。そのために、主権者たる国民は、政治家や公務員に対して憲法の順守を課しているのであります。
日本国憲法第十二条及び第十三条は、国民の権利を定めるとともに、「権利を濫用してはならない」、「公共の福祉に反してはならない」と定め、国民が国家に強制されずとも、自らの良心をもって行動していくことを謳っております。
よって、改正草案にある国防の義務など国民の義務の項目は憲法に記されるものではなく、削除されるべきであります。

二、「個人」を「人」と書き変えないこと
日本国憲法第十三条は、「すべて国民は、個人として尊重される」と謳っており、改正草案において「個人」を「人」と書き変えることに反対をいたします。
基本的人権を守ることの根底には、一人ひとりの人間が、「その人」であることを尊重するという哲学があり、それは個性の尊重であるとともに、社会全体でみれば多様性の尊重であります。社会を構成しているのは「個人」であり、一人ひとりの「個人」の中核にあるのは尊厳であります。「人」という用語には、そのような個性、多様性、尊厳が欠如しており、権力により特定の価値観を押し付けられる危険性があります。
よって、憲法の条文においては「人」ではなく、「個人」と記載されるべきであります。

三、「信教の自由」を保障し、「政教分離原則」を堅持すること
一人ひとりの生き方を担保する信教の自由は、基本的人権の根幹をなしており、憲法において信教の自由を明確に保障することは、極めて重要であります。そして、政府及び政治権力がすべての宗教及び宗教団体に対して中立の立場をとる政教分離は、信教の自由を制度的に保障するための重要な原則であります。
改正草案の第二十条及び第八十九条では、国及び地方自治体その他の公共団体が「社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては」宗教活動を行うことを可能とし、「社会的儀礼又は習俗的行為」に対する公の財産の支出を可能としております。
しかし、これは、政府及び政治権力が社会的儀礼や習俗的行為の内容を決定することを意味し、さらには政府及び政治権力が特定の宗教あるいは宗教団体との結びつきを強め、中立の立場を放棄することにつながり、日本国憲法が長年にわたり堅持してきた政教分離原則を大きく逸脱するものであります。
よって、第二十条及び第八十九条の改正草案に強く反対いたします。

四、「公益及び公の秩序」を憲法に盛り込まないこと
改正草案では、第十二条及び第十三条などにおいて「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」と大きく変えられています。
しかし、「公益及び公の秩序」は、時々の政府及び政治権力がその内容を決定することを意味し、国民に「公益及び公の秩序」に服従することを義務として課すことにつながります。これは、先の「一、憲法に国民の義務を記さないこと」で述べたとおり、憲法で記されるべきものではありません。
よって、「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」の文言に書き変えることに強く反対いたします。

五、平和主義を守ること
国民の基本的人権は、平和が保持されてこそ守られます。すなわち、日本国憲法の三大原理の一つである「平和主義」は、基本的人権を守るという憲法の役割からの当然の論理的帰結であります。日本国憲法は、第十三条で「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を定めており、国民の「生存権」及び「幸福追求権」は、平和が保持されてこそ守られるものであります。
すなわち、憲法の三大原理の一つ、「基本的人権の尊重」の基盤は「平和」にあり、同時に、基本的人権の根幹をなす「信教の自由」が常に保障されていくためには、平和が保たれていくことが必要であります。
よって、憲法改正作業においては、日本国憲法の三大原理の一つである「平和主義」を確固として堅持していかれるよう、強く要望いたします。
新日本宗教団体連合会 
理事長 保積 秀胤

2015/6/26

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