終戦80年―新宗連の使命 特別事業で具現化
「すべてのいのちを尊ぶ世界」の実現を
令和7年1月1日
新日本宗教団体連合会 理事長 石 倉 寿 一
新日本宗教団体連合会 理事長 石 倉 寿 一
乙巳(きのとみ)の新年を寿ぎ、謹んでごあいさつ申し上げます。
昨年は、元旦に発災した「令和6年能登半島地震」、さらに9月にも能登半島を襲った豪雨災害により、多くの方々が甚大な被害を受けられました。犠牲となられた方々に、改めて衷心よりのご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆さまに心よりお見舞いを申し上げます。
新日本宗教団体連合会(新宗連)では、昨年4月から12月までの間、加盟教団からの物心両面にわたる支援と協力により、延べ800人を超えるボランティアを被災地へ派遣しました。家財道具の運び出しをはじめ、泥かきや住宅復旧作業、さらには地域のお祭りへの参画支援などを通じて、住民の生活再建を支えるために尽力しました。支援活動の中で得られた被災者との絆や信頼は、何ものにも代えがたい貴重なものでした。
私も昨年7月石川県を訪れ、被災状況を直接目にして、地域の絆や助け合い、支え合いの大切さを改めて実感しました。
昨年12月をもってボランティア派遣は一区切りしましたが、復旧・復興は道半ばです。現地の方々への支援の気持ちを忘れずに、「すべてのいのちを尊ぶ」という理念を行動で示していくことが、何より大切です。
さて、本年は終戦から80年という節目を迎えます。この機会に、「すべてのいのちを尊ぶ世界」実現を目指す新宗連の使命について、昨年度から推進している特別事業を通して具現化する一年にいたします。
60回を迎える戦争犠牲者並びに平和祈願式典
新宗連は、これまで「祈り」を基盤とした活動を通じて、多くの戦争犠牲者や災害で犠牲となられた方々に思いを馳せ、慰霊や供養の誠を捧げてきました。その象徴と言えるのが、今年で60回目を迎える「戦争犠牲者慰霊並びに平和祈願式典」です。この式典は、1962(昭和37)年に第1回を開催して以来、その時々の青年達の真心により続けられてきました。式典会場である国立・千鳥ケ淵戦没者墓苑は「無名戦没者の墓」として知られ、特に海外戦没者をはじめ、国により収集された引き取り手のない御遺骨約約37万体が埋葬されています。一方、沖縄近海や南方の海底には故郷に帰還できないご遺骨も眠られています。
新宗連では「すべての戦争犠牲者」の象徴として、この場所で式典を続けてきました。そして、この式典を続ける中で、宗教者として「日本人の慰霊」にとどまらない、より広い視野を持つ必要性に気づき、1974(昭和49)年には「第1次東南アジア青年平和使節団(アジア懺悔行)」を派遣。式典の名称が「戦没者合同慰霊」から、“すべて”の「戦争犠牲者慰霊」に変更する機縁にもなりました。その根本精神は戦争責任や法律論などの主義主張、国境や人種、怨讐を超え、それぞれが信ずる神仏の願いに基づいて真心からの祈りを捧げ、世界平和実現と絶対非戦を誓うことにあります。
本年はこれを象徴する行事として、先の大戦で最も過酷な状況に置かれた人々、悲惨な状況に置かれた犠牲者の象徴として「死の鉄道」と言われたタイの「泰緬鉄道」の建設現場跡地を訪問します。そして51年前、先達が建立したタイ式供養塔(サンプラプーン)に代表団で参拝させていただきます。
この供養塔前にある碑文には「ここに“大東亜戦争の証人”が眠る ブーゲンビリアの花の咲くかぎり 私たちはあなた方の平安を祈り続けます」と刻まれています。戦争や紛争において、加害者側は自らの行為を忘れてしまうことが多いのに対し、被害者はその痛みや恐怖を決して忘れません。先の大戦においては、日本国内においても沖縄、広島、長崎をはじめ、忘れることはできない、忘れてはいけない悲惨な被害がありました。終戦から80年という節目に、改めて先達が大切にしてきた信念や意識の変革を拝察させていただくとともに、今を生きる私たちの平和に向けた信念を新たにさせていただきます。
本年はタイをはじめ、国内においては鹿児島や沖縄などを巡拝予定です。先の大戦では、全国各地で多くの民間人、また多くの青少年が犠牲となりました。自分より先に子を失う親の気持ちを思うと筆舌に尽くし難いものがあります。こうした悲劇が繰り返されぬよう「絶対非戦」精神を貫いて、真心からの慰霊と平和祈願をさせていただき、祈りの輪を広げてまいります。
戦争犠牲者に対する祈りは、今を生きる私たちの報恩感謝の証でもあります。この尊き礎を元にして、現在において苦しみや困難に直面する人々に寄り添うことも重要です。そして未来に向け「すべてのいのちを尊ぶ世界」実現という私たちの使命を伝え、一人ひとりがより普遍的な平和の実現に向けた道を探求する節目の年にしたいと願っています。
苦しみ抱える人々の声伝え 地域の課題解決に貢献する
「すべてのいのちを尊ぶ世界」実現に向けた大切な視点として、身体的な障がいのある人、性的少数者(LGBTQ+)、また、生活困窮者や、犯罪、非行、薬物依存から社会復帰を目指す人など、人知れず生きづらさを感じ、悩み、苦しみを抱える多様な背景を持つ人々の声に心を傾け、先ず知ること、そして伝えることから始めたいと思います。
また、私どもの教団でも行っておりますが、「こども食堂」を行う宗教施設も増えていると聞いています。身近にある地域が抱える課題にも目を向け、その解決に貢献していくことの大切さを痛感しています。地道な活動ですが、コツコツと続ける中で、信頼関係が築かれたり、新たな縁が結ばれ支援の輪が広がったり、少しずつ浸透していくこともあります。より良い地域社会の創造を目指し、希望を持って努力を続けていくことが大切です。
世界中で今なお繰り返される戦争や紛争、物質的な利害損得に翻弄される人々による不可解な事件、事故等の情報や報道に触れる度に、胸が痛むとともに、私たちが当たり前のように享受している安心や平和な日常は容易に失われる脆さがあると感じています。こうした時世において、動揺せず、信念を堅持するには、まず一人ひとりが足元の問題にしっかり目を向け、信仰者として一つでも御教えの実践をして自己変革に努めるとともに、身近な人に善い影響を与えていくことが重要です。
どんなに優れた教えや歴史伝統ある組織等があっても、最終的にその価値を表現し伝道していくのは人間です。一人ひとりが「すべてのいのちを尊ぶ世界」実現に向かって日々祈り行動して、周囲にいる人の信頼を得ていく。これを丁寧に積み重ねていくことが真の変革となり、希望の光となって、平和への道につながっていくと信じます。
一人ひとりが、この光を磨き、輝かせ、未来へとつないでいきたいと思います。本年も共に手を携え、さらなる善進ができるよう、ご理解とご協力を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
2025/1/6
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