渡辺雅之氏が事例をもとに講演
新日本宗教団体連合会(新宗連、石倉寿一理事長)は2月17日、「第36回教団人セミナー」を東京・代々木の新宗連会館とオンラインの併用により開催した。
同セミナーは新宗連結成10周年(1961年)を機に、宗教の社会性をテーマに開催され、各界の識者を講師として招き、新宗連役員を中心に学び合う場として位置付けられてきた。今回は「すべてのいのちを尊ぶ世界」実現推進事業の一環として、大東文化大学特任教授の渡辺雅之氏を講師に迎え、「『すべてのいのちを尊ぶ世界』実現のために私たちができること―ヘイトスピーチとマイクロアグレッション(無自覚な差別)」をテーマに講義を行った。
渡辺氏はヘイトスピーチやマイクロアグレッションの問題を国際情勢と関連づけながら説明し、「人の命とは何か」「尊厳とは何か」という根源的な問いを投げかけた。無意識の偏見が差別を受けた人の心身に深い傷を与えること、さらにはヘイトクライムやジェノサイドにつながる危険性を指摘。社会全体の公平性が損なわれる可能性について詳述した。

さらに「なぜ差別はなくならないのか」という問いについても論じた。「思いやりや優しさだけでは差別はなくならず、社会の歴史や文化が人々の意識に影響を与えている以上、根本的な変革が求められる」と指摘し、具体的な方法として次の二点を提示した。
第一にバイアス(偏見)に気づくことを挙げ、「私たちはそれぞれの育った環境によって『色のついたサングラス』をかけている。その存在を自覚し、時には外してみることで、多様な視点を得ることができる」と述べた。
第二に第三者の役割の重要性を強調し、「差別が発生した際、それを受ける当事者だけでなく、周囲の人々がどのように介入するかが鍵。傍観者が声を上げ、差別的な発言や行動を許さない社会を築くことが求められる」と訴えた。
加えて「多様性こそが社会の力」との考えを示し、腸内細菌を例に挙げた。「腸内には何兆個もの細菌が存在し、それぞれがバランスを保つことで健康が維持されている。社会もまた同様に、多様な価値観が共存し、互いを尊重することで成り立つ」と主張した。
質疑応答ではマイクロアグレッションの悪用リスク、偏見の機能と構造化の必要性といった質問が寄せられ、活発な議論が交わされた。
最後に渡辺氏は「争いごとは避けられないが、それを暴力で解決するのか、対話によって折り合いをつけるのかによって、社会の倫理水準が問われる」と話し、「人権とは人がただそこにいるだけで大切な存在ということ。その延長線上にすべてのいのちを尊ぶ世界がある」と結んだ。
2025/3/14
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