新日本宗教団体連合会(新宗連)企画委員会(田澤清喜委員長)は、6月26日と7月10日の両日午前、東京・代々木の新宗連会館を会場にオンライン併用で「第33期臨時学習会」を開催した。今回の学習会は「すべてのいのちを尊ぶ世界」実現推進事業の一環として、LGBTQへの理解を深めるとともに、今後の取り組みを検討することが目的。

藥師氏は冒頭、幼少期から高齢期に至るまで、性的少数者が社会の中で直面している孤立や差別の深刻さについて紹介。特にLGBTQの子どもや若者の約7割がいじめを経験し、過去1年のうち10代の2人に1人が「死にたい」と考え、5人に1人が自殺未遂を経験しているという実態を報告した。さらに、学校や家庭のみならず、職場でも根強い差別やハラスメントが存在し、過去1年でLGBTQの約7割が職場で困難やハラスメントに直面していることや、LGBTQであることを理由に内定が取り消されるといった差別的な事例も示された。
加えて、福祉や医療の現場でもLGBTQ当事者が直面する課題は山積していると強調。行政や福祉サービスの利用時に8割近くが困難やハラスメントを経験しており、医療の場面でも同性パートナーが法的に「家族」として扱われず、病状説明や集中治療室での面会等ができない事例があると指摘した。高齢期には、同性パートナーと婚姻できない現行法制度のもとで、たとえケアの担い手であっても介護の申請等の手続きが行えないなど、法制度上の制約が孤立を生む矛盾点に言及した。
また、職場でのアウティング(本人の許可なく性的指向や性自認を勝手に暴露すること)によるハラスメントや、介護休暇等の各種手当や福利厚生が同性カップルに適用されないなど、働き続ける上での課題が依然として少なくないと話した。
一方で、近年は企業が職場における多様性を尊重する取り組みとして、「PRIDE指標」が浸透している点に触れた。PRIDE指標とは、企業等の職場がLGBTQに関する取り組みを評価表彰する指標であり、「行動宣言」「コミュニティ」「啓発活動」「人事制度」「社会的発信」という5つの観点から評価する基準。2016年には79社だった取得企業が2024年には866社へと大幅に拡大している現状を踏まえ、「制度を整えるだけでなく、一人ひとりの理解が包摂的な環境づくりAに重要」と指摘し、職場や地域で誰もがアライ(AllyーLGBTQ当事者を理解し、共に支援する人)として行動する重要性を示した。
最後に、多様性を尊重する社会の実現に向け、当事者からカミングアウトを受けた際には「話してくれてありがとう」と受け止め、困りごとがある場合は寄り添いながらも、勝手に周囲に共有するアウティングをしないことの重要性を呼びかけた。加えて、SOGIハラスメント(性的指向・性自認への嫌がらせ)に対しては、「制止する」「通報・報告する」「話題を変える」「避難所になる」といった具体的な行動が誰もができるアライとしての一歩になると説明した。
「居場所としての宗教」をめざして

斎木氏はまず自身の経験を交えながら、宗教とLGBTQの人々が社会の中で共通して抱える偏見や孤立感について言及。宗教者もLGBTQの人々も、ときに「異端」とみなされ、差別や色眼鏡で見られてしまう現実があるとし、「宗教界こそが孤立する人々の居場所となり、支え合えるコミュニティを築く役割がある」との見解を示した。
また、自身が17歳の時に同姓の男性に好意を抱いたことを契機に、長年セクシャリティと向き合ってきた経験を語り、家族へのカミングアウトに至るまでの苦悩の日々を振り返った。恋愛相談すら誰にも打ち明けられず孤立していくことが、深刻な葛藤や自死の危機につながる現状を明かし、「悩みを分かち合える場として宗教が果たす役割は大きい」と力を込めた。
さらに、企業や宗教団体がLGBTQへの理解を深める意義についても触れ、全国で多い名字の人や左利きの人の割合に例えて、「私たちの身近にも5〜8%のLGBTQの人がいる」と説明。共に働き、共に生きる人々が安心して相談できる環境づくりが組織の強みになると訴えた。
加えて、性的指向や性自認に対する差別的言動を防ぐ法整備の必要性や、ポリティカル・コレクトネス(略称:ポリコレ、言葉や行動において差別的な表現を避け、すべての人々に平等な扱いを提供しようとする考え方)の視点を挙げ、宗教団体においても正確な知識と理解の共有が不可欠と強調した。一方で、あらゆる事象をコンプライアンス違反として声高に非難する風潮には慎重であるべきだと主張した。
また、特定非営利活動法人東京レインボープライドが掲げる「らしく、楽しく、誇らしく」というミッションに触れ、これは宗教にも通じる理念と語った。加えて、哲学者・西田幾多郎の『善の研究』を引用し、宗教とは大いなる存在のもとで多様な価値観が共存できる普遍性を持つとし、「人は皆つながっており、同じ仲間として相手を傷つけない生き方こそが信仰の本質であり価値」との考えを示した。
質疑応答では、同性愛者の子どもがいじめられるという社会の前提を変える必要性や、LGBTQへの理解を「思っているだけ」で終わらせず、イベントなどで理解者であることを可視化することの意義が話題に上った。また、誰にも打ち明けられず苦しみ、自死を選ばざるを得ない状況に追い込まれる人々の現実を変えるために、宗教団体が「誰もが安心できる居場所」として果たすべき役割について、活発な意見が交わされた。
2025/7/22
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