
藥師氏は冒頭、「私たちは見た目だけでは分からない多様な違い――障害、家族の状況、性の在り方などを抱えて生きている」と指摘。その上で、違いを尊重し、公平に機会を保障し、包摂する社会理念として「DEIB」(※1)を紹介した。DEIBは「社会や組織の持続的発展の基盤」であり、「誰もが多様であり、公平な機会のもとで安心して自分の居場所を感じられることが大切」と強調した。性の在り方もその一つであり、外見からは分からない違いとして理解する必要があると述べ、性の多様性を考える四つの軸@法律上の性別A性的指向B性自認C性表現を提示。「これらを組み合わせて、一人ひとりの性の在り方を考えることができる」と説明した。さらに、すべての人の性的指向や性自認を人権として捉える概念「SOGI」(※2)を紹介し、「SOGIは特定の人だけではなく、すべての人がもつ“性の在り方”を尊重するための言葉」と述べ、理解を求めた。
日本社会における現状についても言及。LGBTQの人々は人口の約3〜9%を占めるとされるが、「日本はG7の中で唯一、同性婚が法的に認められていない」と指摘。2023(令和5)年に施行された「LGBT理解増進法」については「行政、事業者、学校における取り組みが法律で規定された意義は大きく、社会のさらなる前進が期待されている」と述べた。
また、職場で性的指向や性自認を誰にも打ち明けられないLGBTQが約70%に上る現状を報告。「いないものとされがちだが、実際にはとても身近な存在。どの職場や環境にもいることを前提に、職場づくりや環境整備を進めていくことが大切」と強調した。
さらに、子ども期のいじめや不登校、家庭での孤立を挙げ、10代のLGBTQの約半数が“死にたい”と思った経験を持ち、過去5年間で2人に1人が生活困窮を経験し、約4割が精神障害を発症していると紹介。一方で、約8割が行政や福祉サービスの利用時に性の在り方を理由に困難やハラスメントを受けたとの調査結果も示し、「誰もが安心して医療や福祉にアクセスできる社会の構築が急務」と訴えた。
次に、国内で進む多様性教育の取り組みを紹介。学校での授業や企業・自治体向けの研修などが浸透しつつあり、「教科書にも多様な性が取り上げられるようになり、教育現場で多様性を伝える意義が深まっている」と話した。
続いて、立正佼成会総務部渉外グループ次長の佐原透修氏が、同会で導入された「同性パートナーシップ制度」について報告。同制度は、職員の同性パートナーおよびその子どもを同会制度上の「配偶者や家族」と見なし、住居手当など婚姻関係と同等の福利厚生を適用するものであり、「毎回事情を説明する負担をなくすため、制度として明文化した」と説明した。
講演のまとめとして、藥師氏は「カミングアウトを受けたときは『話してくれてありがとう』と受け止め、『何かできることはある?』と寄り添う姿勢が大切」と呼びかけた。また、性的指向や性自認に関するハラスメント(SOGIハラスメント)を見聞きした際に第三者として止める行動―止める(ストッパー)、報告する(レポーター)、話題を転換する(スイッチャー)、避難所となる(シェルター)の重要性を説き、「誰もが多様性の中にいる当事者として、共に考え行動してほしい」と呼びかけた。
質疑応答・意見交換では、「自分の中にある無意識のバイアスに気づかされた」「日々の気づきや実践こそ多様性理解の第一歩だと感じた」との声が寄せられた。藥師氏は「アライ(理解者)であることを示してくださることが心理的安全につながる。完璧でなくとも、寄り添おうとする姿勢こそ最大の支援」と応じた。
家族支援を問う声には「親もまた孤立しやすい存在だからこそ、親の支援が欠かせない。親の理解の有無が子どもの生存を左右する」と述べた。最後に「宗教者が理解し合う場を重ねることが希望につながる」との意見が発表された。
…………………………………………
※1 DEIB(ダイバーシティ=多様性、エクイティ=公平性、インクルージョン=包摂、ビロンギング=居場所)の略。※2 SOGIとはSexual Orientation and Gender Identity(性的指向と性自認)の略。
2025/11/7
▲ページの先頭へ