祈りを継ぎ、いのちをつなぐ1年に
令和8年1月1日
新日本宗教団体連合会 理事長 石 倉 寿 一
新日本宗教団体連合会 理事長 石 倉 寿 一
丙午(ひのえうま)の新年を寿ぎ、謹んでごあいさつ申し上げます。
昨年は終戦80年という節目を迎え、日本社会でも戦争の記憶や平和への願いをめぐる議論が例年以上に広がった一年でした。一方で世界には依然として深刻な紛争や分断が続き、多くの人々が不安と恐怖の中で暮らしています。新しい年を迎える今だからこそ、「すべてのいのちを尊ぶ世界の実現」という理念を胸に刻み、祈りと行動をもって社会に寄り添う一年としたいと念じております。
昨年11月30日、千鳥ケ淵戦没者墓苑において第60回「戦争犠牲者慰霊並びに平和祈願式典」(青年平和式典)が挙行されました。この中で、青年による「平和へのメッセージ」は、私の心に深く響きました。そこでは「平和は大きな理想ではなく、日々の中に生まれる小さな優しさの積み重ねです」と語られており、戦争を知らない世代が真摯に祈りを受け継ぎ、未来への責任を自覚している姿に、私たちの歩むべき道が明確に示された思いがいたしました。
祈りの継承と「いのち」を
見つめる巡礼の旅
新宗連が令和6年度から取り組んできた「すべてのいのちを尊ぶ世界」実現推進事業は、今年3月に節目を迎えます。しかし、その精神は戦争や災害の犠牲者への慰霊とともに、生きづらさを抱える現代の人々に寄り添う実践として今後も深化させてまいります。
昨年10月の「第37回教団人セミナー」では、LGBTQ当事者の方から、痛みや偏見による不当な差別について学ぶ貴重な機会をいただきました。率直な対話を重ねる中で、「苦しむ人に寄り添う宗教者の姿勢」が自分の中に確かに育つのを感じる学びでした。
戦後80年を象徴する事業「平和への巡礼」では昨年2月にタイ王国を訪れ、泰緬鉄道建設によって犠牲となられた方々の慰霊供養を行いました。ナムトクの丘に建つサンプラプーン(タイ式供養塔)や各地の戦跡を訪ね、青年時代に訪れた頃とは景観が変わっていても、戦争犠牲者への思いは変わらず胸に迫りました。
さらに、国内においては昨年4、5月に鹿児島や沖縄にも足を運び、祈りを捧げてまいりました。この国内の巡礼には原点となる平和使節団を始められ、その礎を築かれた深田充啓名誉会長にもご同行いただきました。読谷村のティラヌ壕、チビチリガマでは、突然、激しい雷雨に見舞われましたが、共に参加した加盟教団の皆さまと心を一つにして祈る場となりました。激しい暴風雨と翌日の灼熱の太陽は、まさに80年前の沖縄戦の凄烈さを私たちに伝えようとしているかのようでした。戦争犠牲者を悼み、そのご遺族の思いに寄り添う慰霊は、時代がどれほど移り変わろうとも、私たちが果たし続けなければならない大切な務めです。
私が青年時代に参加した「東南アジア青年平和使節団」(アジア懺悔行)では、中国・南京や旧満州を訪ね、万人坑遺址で小さな骨片を拾い供養しました。日本人が加害・被害双方の視点を持たねば真の平和に至らないことを、現地に身を置くなかで深く実感いたしました。困難の中でも残留孤児を育て続けた人々の慈しみに触れ、日本人として深い感謝を抱いたことも忘れられません。
こうした経験を振り返ると、戦争を「語り継ぐ責任」と「祈りをつなぐ使命」の重さを改めて痛感いたします。世代を超えた祈りと対話こそ、平和を未来へとつなぐ確かな力なのです。
分断の時代に求められる
宗教者のまなざし
現代社会では、物価高や人口減少が重なり、将来への不安が一層広がっています。SNSの普及により、刺激的な言葉が過度に注目を集め、誤情報が分断を生み出す事態も後を絶ちません。こうした状況だからこそ、「すべてのいのちを尊ぶ世界」という理念は、これまで以上に大きな意義を帯びてまいります。宗教者には、人々をつなぎ直す「対話」と「包摂」の姿勢が強く求められており、孤立する人の声に真摯に耳を傾け、安心して語り合える場を開くことこそ、宗教界に託された重要な使命なのです。
特に若い世代には、情報に振り回されることなく「立ち止まり、確かめ、自ら考える力」を育んでほしいと願っています。学びは視野を広げ、感情的な言説に左右されない力を与えてくれます。
私は信仰生活において経典を唱えるだけでなく、教えを日々の歩みに照らし、自らの心を省みることこそ信仰者の基本姿勢だと考えております。仏教に説かれる「慈悲」は、優しさだけでなく、相手を慈しみ、その苦しみを自分の痛みとして受け止め静かに寄り添う心です。
65歳となりシルバーパスを手にしたことを機に公共交通機関を利用する機会が増え、乗車のたびに運転手の方へ「ありがとうございます」と声をかけるよう心がけています。ささやかな行いではありますが、続けるほどに人を敬う気持ちが自然と育ち、日々のつながりがより温かく感じられるようになりました。
青年が語った「平和は日々の小さな優しさの積み重ね」という言葉の通り、「慈悲」は特別なものではなく、日々の暮らしの中で育まれるものです。その心を絶えず形にしていくことが、世の中を少しずつ良くし、自他の幸せを生む道であると実感しております。
新宗連は、信仰を持つ人も無宗教を選ぶ人も、その良心と意思を尊重してきました。本人が自らの意思で教えに触れ、信仰したいと思える心が育つことこそ、宗教の本質ではないでしょうか。
多様な宗教が互いに協力し合う新宗連の強みを最大限に生かし、市民社会との協働も視野に入れながら、今年も加盟教団の皆さまと手を携え、「すべてのいのちを尊ぶ世界の実現」に向けて善進していく所存でございます。
どうぞ本年もよろしくお願い申し上げます。
2026/1/1
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