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「尊厳死の法制化」に関する意見書

                              平成18年3月29日
尊厳死法制化を考える議員連盟
会長 中山 太郎 殿
                                    新日本宗教団体連合会
                                     企画委員長 宮本けいし

新日本宗教団体連合会は、「尊厳死の法制化」をめぐる諸問題に対し、国民の人生観、死生観の形成に寄与してきた宗教者の立場から、以下のとおり意見を表明するとともに、法制化に際しては国民の声を十分に汲み取り、慎重に審議されますよう要望いたします。
日本では、ここ数年、末期がん患者、長期療養生活を送る高齢者などに「尊厳死」を認めようとの議論がなされておりますが、「尊厳死」問題は、日本人が長年にわたり保持してきた死生観と深くかかわることから、短期間での拙速な結論に至ることがありませんよう重ねて要望いたします。
さて、2005年11月に「尊厳死法制化を考える議員連盟」が公表した「尊厳死の法制化に関する要綱骨子案」では、「自己決定権」が前面に打ち出され、憲法第13条を立法根拠とすることが検討されております。しかし、同条が規定する「個人の尊重、生命、自由及び幸福追求の権利」は、「生きることへの自己決定権」を謳ったものであり、「死への自己決定権」ではないと思量いたします。
 現在、尊厳死をめぐる議論のなかで重要な要件となっている「末期の状態」の判断基準や「苦痛緩和の措置」の具体的内容などは、専門家の間でも見解が分かれたままであり、また、多くの国民にとって「安楽死」と「尊厳死」の区分さえ十分に理解されていないなかで法制化が進められることは、医療現場のみならず、社会生活のあらゆる場で生と死をめぐる諸問題に混乱を引き起こすものと言わざるを得ません。
 宗教者は、一人ひとりが自らのいのちを活かしながら生きていくことを、また、死に直面する人には最後まで希望をいだき続けることを説いてきました。この世に生を受けた一人ひとりのいのちは、かけがえのないものであり、そのいのちを尊び、死ぬる瞬間までよりよい生き方を説いていくのが宗教者の働きでもあります。
私たちは、末期がん患者や長期療養生活の高齢者などがかかえる問題を考えるとき、わが国が取り組まなければならないのは、他国を模しての「尊厳死の法制化」ではなく、経済的に豊かになった日本社会の中で国民一人ひとりが「尊厳ある生」を享受できることを推し進める「尊厳生」の検討であると考えます。
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と謳った日本国憲法前文を尊重するとき、「尊厳死の法制化」はわが国にはなじまないものと思量いたします。
私たち宗教者は、それぞれの教化活動を通じて生や死の問題について深く考え、より一層生命尊重の精神を喚起していくことを決意するものであります。    

2006/3/29

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